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対談 東先生&吉井先生

吉井吉井と申します。よろしくお願いいたします。
東です。よろしくお願いします。
吉井先生の講座を聞かせていただきましたが、私が過去に知ってきた心理学者の先生方からすると、非常にユニークで個性的な先生の講座を聞いて私自身も新たな驚きがありました。先生がシステムズ・アプローチ、家族療法に取り組まれたきっかけはどういうことでしょうか。
私が心理臨床の世界に入ったのは昭和54年です。
学生時代は心理学科でしたが、ネズミを使った実験をやっていました。要するに基礎心理学で、臨床の勉強はまったくやっていませんでした。
動物実験ばかりやっていましたので、就職で臨床の世界に入るときに、行動療法を行っているクリニックに就職しました。ご存じの方もあるかもしれませんが、この行動療法は、動物の基礎実験データをもとに、それを人間の治療に応用しようというものです。
ですから、臨床経験や知識がまったくなくても、基礎実験をやっていたのだから行動療法ならなんとかなるだろうとうことで。
そうすると、たまたまそこの院長先生が行動療法と同時に催眠療法の先生でもありました。
催眠療法というと、これも知識の一つとして覚えていただくといいですが、もうずいぶん前に亡くなりましたが、アメリカにミルトン・エリクソンという非常に有名な治療者がいました。催眠療法家で天才的な治療者です。

その先生は、ミルトン・エリクソンの研究もされていました。その影響で、私もエリクソンのことを勉強し始めました。その治療がすごく面白く、奇跡的なほどのものです。そのエリクソンが、実は家族療法のひとつの流れになっていった。私もその関係で家族療法を始めたわけです。ですからミルトン・エリクソンに対する興味から始まったということがひとつ。
もう一つは、実際にそれを始めてみて、本を読んであるいは上司である院長先生から教えてもらって、見よう見まねで、何人かの患者さんにエリクソン的な家族療法のアプローチを試しました。そうすると良いも悪いも劇的なことが起きたのです。
例えば外出恐怖で家から出られなかった奥さんが、一回の治療で外に出られるようになりました。その代わり、副作用があって、ご主人がうつになってしまいました。今は大変反省しています。
あるいは、これは具体的にお話しいてもいいと思いますが、50歳代の会社の社長さん。体中がかゆくて、催眠療法で治してくれと言われるので、催眠術で「かゆみが取れます」とやりますが、確かに催眠の後3〜4時間は取れます。でも、すぐに元に戻ってしまう。
それを繰り返していて、これはダメだと思っていたところ、その方のお話をよく聞きますと、次のことがわかりました。その方はワンマン社長で、娘さんはいますが、跡継ぎがいませんでした。そこで自分の二代目に養子さんを取りましたが、これがボンクラで全く仕事ができない。
自分ならこれくらいのことはできるのにということでイライラしますが、二代目は全然伸びない。そういうことが何年も続いたところ、社長にかゆいかゆい病が始まった。 かゆいかゆい病が始まってどんなことが起きたかというと、その社長はあちこちの病院に行かなければならないわけです。
あるいは、かゆくて仕事どころではないわけです。結局、ぼんくらの二代目に仕事を任せなければ仕方がなかったわけです。結果どうなったかというと、なんと二代目が社長としての力をつけた(笑)。
そういう話がインタビューを通してわかってきました。それで私はぴんときて、昨日も少しお話しましたが、パラドックスの処方を行いました。社長さんにこんな話をしたのです。
「あなたの症状は役に立っている。あなたは社長業最後の仕上げの仕事をしている。二代目をいかに育てるか。これを、あなたは症状というものを無意識的に使って、二代目を育てている。
もし、この症状がなかったとしたら、あなたは非常に有能な人だから、どんどん自分でやってしまうでしょう。すると二代目は育たない。だからあなたの症状はあなたを助けている。これは大事にしておきなさい」と言いました。
その社長はキョトンとしていましたね。それからしばらくは来なくなりました。
下手なことをしたと思っていましたが、何ヶ月ぶりかに久々に来られて、「先生、もうかゆいのは治っています。おかげさまで全くなくて、会社も全部息子に任せて、私はもう一つ別の会社を作ってそこの社長をやっています」(笑)
これは、私がまだ20代後半のときの経験です。やり始めたばかりのときです。
こんな面白い世界があるのか。ちょっとした工夫で人生は劇的に変わる、人は大きく変わるという経験を初期のうちにしたのですね。これで病みつきになりました。(笑)
こういうアプローチから離れられなくなったわけです。最初に申し上げたとおり、外出恐怖症の奥さんはよくなりましたが、ご主人がうつになったという例もありました。これは大失敗ですけれども。
なぜご主人がうつ病になったかというと理由は簡単。私のパラドックス処方が下手だったのです。どういうことかというと、そのご夫婦は、離婚寸前とまでは言いませんが、かなり冷めた夫婦でした。
ところが、奥さんが外出恐怖になって、ご主人がそばにいないと外出もできない。不安で仕方がないわけです。つまり、その症状がご夫婦の接着剤みたいなものでした。それがはっきりわかってきたので、僕がそれを言ってしまったのです。
ご夫婦に対して、「奥さんの症状は役に立っている。この症状がないと二人は危ない関係になっていたかもしれない。それが、この症状のおかげでなんとか夫婦としてまとまっていける。この症状は役に立っているからやめてはいかん」と。今思えばムチャクチャなことを言いました。
二人はキョトンとしていましたが、奥さんは翌日、一人で四国の友達のところに遊びに行ったそうです。それを報告に来たのがご主人です。暗い顔をして。結局、うつ病の患者さんとして新しくカルテができました。(笑)
私が下手だった理由は簡単です。「この症状がなければ、だめな夫婦。ご主人は何をしていたのか。あなたが悪いからこうなった」という内容を結果的に伝えてしまったわけです。しかしそのときには気がついていない。良かれと思って言っているけど、いかに相手を傷つけることを言っていたのかということが、どうしてもわからなかった。 先ほどのかゆいかゆい病のおじいちゃんには、人を傷つけるようなことを言ってないと思います。むしろ、社長としての最後の工夫だと讃えているわけですが、後の話は、ご主人をダメな人だと暗に伝えたのです。人と話をするときは、やはり全体として、相手を傷つけないようにする工夫が必要になりますが、それを怠ったのですね。でも、成功と失敗を含めて非常に大きな動きがあるということで、病みつきになりました。これが始まりです。

吉井つまり、行動療法をやっていて、これから何をしようか、自分の居場所を模索している時期があったわけですね。

というか、先ほど言ったように、たまたま動物実験をやっていましたので行動療法を始めましたが、やりたくてやったわけではなくて、それしかできないからそれをやれと言われて、最初は形だけやっていたような感じです。

吉井結果的には、院長先生のお勧めで、そういった療法と知り合って、それを自分でまとめて、これはいける、これこそ心理学の臨床に必要だというように感じたわけですね。

感じました。院長先生も、私を行動療法家として採用したわけで、たまたまエリクソンのことを教えてくださいましたが、私がそれをやるとは思っていなかったようです。

ところが隠れてコソコソやっていたわけです。それが治療で大きな変化を起こした。それで院長もびっくりして、「おまえは口八丁手八丁だ。それをやれ」と言われて、それで許可もいただいて、ますますはまり込んだという感じです。

吉井そうすると、すでに20数年のキャリアで。

もう25年ほどで、一筋といえば一筋です。

吉井先生は今、いろんな形で後進を育てているということがありますが、育てていく原動力になっているものはいかがでしょうか。

私は、昨日の自己紹介のときにも話しましたが、実際に病院で臨床をずっとやってきました。大学あるいは大学院で後進の指導をするのは、ここ5年ぐらいのことです。

最初は臨床の現場を離れたのを少し後悔しました。やはり、臨床をやっているのが一番楽しいです。学生を指導するのが楽しくないとは言いませんが、私にとって本当の面白味は臨床の場にあります。成果がすぐに見えるからです。

ところが、最近やっと意識が変わってきました。えらそうなことを言いますが、例えば、私が一生のうちに1000人の患者さんやその家族を援助することができるとしたら、10人の学生を仕込めばパワーが10倍になって、1万人になるわけです。

上手に後進の指導をすることが、もっと世の中の役に立つのではないかという気持ち、その気持ちが支えで学生を指導しているという意識が強いです。

吉井正直なことを言うと、25年のキャリアがありながら、どちらかというと一馬力の非力さというか、それをある意味で感じた部分があって、それよりも、むしろ自分が今やっていることを多くの人に教えて、それを広げようということですね。

それにつながってくる話ですが、世の中には器用な人がいて、私の本を読んで見よう見まねで同じことをする人がいます。もちろん専門家です。精神科医や臨床心理士で、そっくりマネをする人がいます。

その人がうまくいったと手紙をくれたりするわけです。あるいは学会で会ったときにおっしゃるわけです。びっくりしましたね。えらそうなこと言いますが、こんなことは自分にしかできないと思っていた。(笑)

ところができる人がいるということがわかって、それで、学生にも指導することにつながってきたわけです。

吉井でも、ずっと指導されている人で、自分で見える成果が出てきたでしょうか。

まだまだです。まだまだ、全くと言ってもいいでしょう。大学院生は、そこそこ社会経験を積んでから入ってくる人も中にはいますが、全体に人生経験も少ない。そういうところで、知識だけは持っていますが、現場の中では生かせないというもどかしさを感じます。
まず今はスタートライン、大学院を卒業した人間も、まだスタートラインに立っているだけで、ここから後にどれだけ経験を積むか、です。

ですから、大学院を卒業したら「はい、サヨナラ」ではなくて、以後はメールで弟子から臨床経験を報告させて、できるだけアドバイスするようにしています。
そうでないと、若い人はやり方をすぐに忘れてしまいます。なぜかというと、私が教えている方法はこの業界の主流ではないからです。家族療法は、今でこそかなり市民権を得ましたが、まだまだ特殊なやり方の範ちゅうに入っています。

日本の精神医療や心理療法に詳しい人はご存じだと思いますが、やはりたとえば精神分析的なものがこの業界の中心です。フロイト、ユング。あるいはロジャースもお聞きになったことがあると思います。そういう考え方でやっている人がほとんどです。

学生が私から勉強してどこかに就職したとします。しかしそこは、どうしても伝統的な考え方が主流ですから、自然とその考え方に染まらざるをえないわけです。また、ジョイニングという観点からは染まらないと困りますしね。

新しい組織に入って、「私は家族療法をやってきた。あなたのやり方は古い」なんて周囲に言ってたら干されてしまいますよね。とりあえずは仮面をかぶって、「ユングは素晴らしいですね」「フロイトですね」なんて言いながら入っていって(笑)、だんだん自分のやり方を皆に見せなさい。そして自分の地盤を築きなさいといった指導をしています。

でも、それができればいいですが、「ユングは素晴らしいですね」「フロイトは素晴らしいですね」とジョイニングでいっているつもりが、いつの間にか本気になってしまう人がいます。(笑)

それで終わってしまう人がいます。もちろん、それはそれでいいのですが、せっかく家族療法を教えた立場からするとちょっともったいないなと思いますので、卒業後も続けて指導をしているわけです。

吉井25年以上やってこられて、その中でたくさんの事例、楽しい事例があると言われましたが、先生が劇的に思い出に残る事例はどういうものがありますか。

山ほどあります。失敗例も含めて山ほどあります。まず失敗例からお話しましょうか。
これは今思い出しても恥ずかしい話です。統合失調症、当時は精神分裂症と言っていましたが、20代の男性の話です。

幻聴があるわけです。誰かが電波で自分を支配しようとしている、コントロールしようとしているということも訴える男性です。家族と一緒に来て、私が家族療法をやっていました。私がまだ28、29歳の頃だったと思います。

その家は大きな農家でした。その男性は仕事もしないで家に閉じこもって、ひたすら病気と闘っているという状況です。彼が主張するのは、家のどこかにリモコンが隠されていて、それで誰かが自分を支配していると。家族も、もちろん今までの治療者も、そんなことはあるはずがないという発想です。

しかし、昨日も申し上げたとおり、私は相手の土俵に乗ってみようと思いました。
それで彼に「リモコンが家の中のどこかにあるのか」と言いました。
「絶対あります」
「あるかもしれないなあ」
「はい」
「それがある場所はなんとなく想像がつく。前にも同じような例があったから」
「どこですか」
「君の家の前に畑があるでしょう。その畑の中のどこかに隠されている。君の家にスコップとかクワはあるか」
「あります」
「お父さん、彼と協力して、二人で家中の土を耕してみてくれないか。そうしたら、そのリモコンが出てくる可能性がある」

 お父さんも、この先生はアホと違うかというような顔をしながら「そうですか」。
「だまされたと思ってやってみてください。君もがんばりや。絶対に君が言っているリモコンが出てくるから」
「わかりました」
それで帰られました。それからです。お父さんと一緒に畑仕事を一生懸命するようになった。(笑)

本当に不思議なぐらい、リモコンの事を言わなくなりました。劇的に変わったのです。親は大喜び。ただし、それは2カ月しかもちませんでした。3カ月目に、その患者さんは、私が診ていたときよりもひどい状態になって精神科病棟の保護室に入らざるをえないぐらい混乱状態・錯乱状態になってしまわれました。

これはとんでもない失敗です。当時は知らなかった。症状が取れればいいと思っていた。いわゆる陽性症状がなくなって、「やった! 分裂病が治った」と思ったのですね。昨日の話と若干矛盾するかもしれませんが、病気の存在がシステムの中である種の意味を持ち、そしてシステムの一部分ではあるけれども、同時にやはり個人の病理ということは、当然あるわけです。

個人、一人ひとりのシステムの問題はあるわけで、特に統合失調症などは一時的に症状がおさまったように見えても、そうそううまくは続かないわけです。
結果的によけいに悪くなることもある。

ある人に「むしろ、誰かに電波で何かをされているといった症状で何とかギリギリ保っていたのではないか。それを取ってしまったので、杖がなくなりどん底まで落ちたのではないか」と言われました。本当に大失敗。症状を取ればいいということではないということを教えてもらいました。

 もう一つ印象深い例があります。これは高校生の男の子ですが、これも失敗例です。症状はよくなりましたが失敗例です。不潔恐怖症はご存じですか。手洗い強迫などといって汚いのが気になって仕方ない。そういう男の子です。お父さんが教育パパで進学校に行っていました。

 学校から帰ってくるとお母さんが玄関でお待ちです。そして、国会の赤絨毯みたいなのを家のドアまでお母さんが敷きます。彼はその上をそろりそろりと歩きながら、1枚ずつ服を脱いでいくのですね。要するに、自分が着ている服は外で汚れたから汚い。汚れているから家に持ち込んではいけない。最後にドアをガラガラと開けるときにはパンツを脱いで、素っ裸でお風呂に直行。それが午後5時ぐらいで、入浴が4時間。

会場 え〜。

4時間、体を洗っている。お母さんはずっと浴室前で待っていらっしゃる。で、4時間たつとお風呂から出てくるでしょ。お母さんがタオルで体中を拭いてあげます。4時間も石鹸で洗いますから油分が取れて身体はカサカサになっています。

 オロナイン軟膏ってご存じですか。オロナイン軟膏の徳用サイズの瓶があって、次にそれをお母さんが彼の体中にベタベタと塗ってあげる。1日に一瓶使います。その家の倉庫には、オロナイン軟膏の瓶がズラッと並んでいる。で、それを塗るのも4時間近くかかる。息子が、ここが足りないからもっと塗れとお母さんに指示するわけ。それがやっと終わったら夜中の1時ぐらい、あとは寝るだけですね。

 でも翌朝は、不思議なことに学校に行きます。で、帰ってきたらまた同じことをする。これを毎日やっているのです。大変な症状だと思いました。私は当時はパラドックス処方が大好きで、今はほとんどしませんがその頃は大好きで、家族から良く話を聞くと、その症状が家族に必要だったというストーリーがやはり作れたわけです。
それで、その話をしたら、やはり劇的によくなったのです。正直な話、私もびっくりしました。しかし、その子もそれで治療が終わったわけではなくて、その後、家庭内暴力になりました。これは一般によく言われているようですが、強迫性障害がある人には潜在的な敵意があったり強い攻撃性があったりして、それを症状で防衛しているという説があるそうです。

まさにその御説どおりに、彼の場合も防衛のための症状が取れると父親への暴力が出た。父親は大きな会社の社長さんですが、息子を自分の跡継ぎにしようと思ったのでしょう。また父親はどこかで母親を馬鹿にしており、しつけの面でも教育の面でも自分が中心でずっと彼の頭を押さえつけてきたそうです。

しかし症状が出た事で父親が一歩引き下がらざるを得なくなった。母親が子育ての表舞台にやっと出て来たわけです。面接の中で、母親は「この子に症状が出て、いよいよ自分の出番だとどこかでうれしかった」といった内容を正直に述べています。しかし、私の介入で症状がとれてしまった。そして、今までの恨みを晴らさんとばかりに父親に対する暴力が出現したわけです。結果的に、これも私の失敗例です。

吉井パラドックスは結局、われわれ第三者的に見ると、劇的によくなる例と反動で逆に症状が悪くなるという感じがしますが、それはいかがですか。

最近は大掛かりなパラドックス、一発で劇的な変化を生むようなパラドックス処方はしなくなっていますが、そのあたりの事情は今おっしゃったことが関係しています。もちろん、中には劇的によくなって、そのままというケースもあります。

先ほどのかゆいかゆいのおじいちゃんのようなこともありますが、同じくらいの回数、副作用として思わぬことが起きてしまうということを何度か経験していますので、怖いというのが正直あります。昨日も、家族療法の技法としてこういうものもありますが皆さんは絶対にマネをしないでくださいと言ったのは、そこに意味があるわけです。

 それと、今まで述べたような副作用でなくても、こういった例もあります。これは、幸い私の経験ではありませんが、知人が治療でえらいことをやってしまいました。怖い治療だということを覚えていただく必要があるので、これも聞いておいてください。

 20代の女性で家庭内暴力。家に閉じこもって母親に対して家庭内暴力。私の知り合いの先生が、その家族に「あなたの家庭内暴力は役に立っている。あなたの家庭内暴力のおかげで家族がまとまって一致団結している。あなたの家庭内暴力は家族を助けている。親を助けているから、あなたは家庭内暴力をやめてはいけません」などと言ってしまった。

その日の夜に、その娘さんは今まで以上に親をぶん殴り母親は骨折。「私は先生にやれと言われた」って。そしてお母さんが大事にしていた500万円相当の宝石をマンションのベランダから捨てたのです。

 その治療者は告訴されました。当たり前でしょう。もっと殴れと言ったのですから。こういう無神経な、私以上にバカな治療者もいるわけですから本当に怖い。私も相当ヘタをしましたが、そこまでのことはさすがに未経験。

パラドックス・症状処方は、本当にそれを続けても良いという前提があるわけです。処方したら、相手は必ず反動でそれをやめるだろうなどという考え方でいるから、ムチャクチャなことになる。暴力をしている人に、意味があるから役に立っているからもっとそれをやりなさいなどと言って、本当にもっとやってしまったら困るでしょ。

それを続けても続けなくても、どちらになっても致命的には困らないような症状や問題や関係性を対象としてパラドックスを処方しなければならないわけです。私の知人はそこのところがわかっていなかったのですね。

吉井普通、カリキュラムは、構造的アプローチのほうが、遅いですが確実にということですね。

全くそのとおりです。私が臨床を始めた当初はパラドックスを使ったアプローチをよくやっていました。エリクソンがパラドキシカルな処方をよく使う人だったので、それをマネしてやっていたのですね。

それから2〜3年たったころ、私が勉強に行っていた大阪大学の精神科医に福田俊一というドクターがいて、アメリカで家族療法を勉強して日本に帰ってきました。彼はサルバドール・ミニューチンという人のところで構造派の勉強をしてきました。

彼は私の治療を見て、「おまえがやっているのは戦略的アプローチ/コミュニケーションアプローチだ。私は構造的アプローチを勉強してきたから一緒にやろうじゃないか」と教えてくれて、結局、二人で家族療法の専門施設を始めたのです。大阪の淀屋橋の心理療法センターという所です。

 そこで私は福田先生から構造派のアプローチを教えてもらいました。昨日話したような、家族のコミュニケーションに治療者が割って入って交通整理のようなことをする、ああいうやり方を教えてもらいました。もちろん、こちらのほうが時間はかかりますが、あきらかに副作用は少ないようです。

何が起きるかそこそこ予測可能という事で安心感が高い。ですから、その頃からは構造派に重点を置くようになり、現在でも学生には構造派しか教えません。パラドックス処方は教えません。

吉井実力がないと、パラドックスをやってしまうと、どうしても逆説の反応がありますね。

どうしても危険です。
ただ、あまりに大掛かりなパラドックスは使わないほうがいいと思っていますが、いわゆるポジティブ・リフレーニングは大いに役立ちます。肯定的な意味付け。これは小型のパラドックスのようなものです。つまり、相手がネガティブにとらえているものを肯定的に返してあげる。これは面接で頻繁に使います。

吉井これがジョイニングの指導になりますか。

ジョイニングにもなりますし、それそのものが変化にもつながります。

吉井ジョイニングは、われわれが普段使っているコミュニケーションにはかなり重要な手段だと思います。当然、療法としても素晴らしいですが、一般的な人たちのコミュニケーション、昨日お話を聞きましたが、ジョイニングという手法はかなりお使いになっています。ジョイニングについて詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

どのあたりですか。

吉井例えば、相手を知る、合わせるということです。「ジョイニング=仲間入り」みたいな形ですね。それをどうコミュニケーションにまで活用できるか。われわれもいろいろ考えましたが、先生の立場から、一般的なコミュニケーションをやる形として、普段の生活の中でどういう形で使えばいいでしょうか。

どういう形で使う?

吉井例えば相手と仲良くなる。もちろん家族関係もそうですが、取引先あるいは周辺の同僚や仲間、近所付き合いも考えたときに、そこまでジョイニングを意識することもないと思いますが、応用としてはかなり使えると私は感じました。

生活にですね。おそらく、器用な方は言われなくてもみんなやっています。有能なリーダーは間違いなく持っている資質です。昨日は細かく話しましたが、実はこの会にお集まりの方には不要な話かと思いながらしゃべっていました。

あの話を聞いて、「ああ私はこういうことを知らず知らずにやってきたのか」と気付いていただければよかったですし、これはやったことがないということがあれば、お土産に持って帰っていただければと思ったわけですが、いずれにせよ、おそらくお集まりの方には絶対に必要な技術です。この技術がなければ人は使えないですよね。あるいは得意先との交渉もやりにくいでしょう。

お得意先に行かれて、そこでの人間関係はどうなのか、誰に主導権があるのか、決定権はどこにあるのか、そういうことに敏感になっていらっしゃるのではないですか。話をうまく通すためには組織の動き方を知らなければならない。相手のルールに従うという、そういうことの配慮はお持ちだと思います。

吉井普通、われわれは無意識で使っていますね。

無意識でやっておられるはずです。

吉井それを意識して自分で使いこなせるようになると、動きというか、周りが見えてきます。システムということではないですが、相手の動きというか、状況がある程度は見えてきますね。

見えてきます。ただ、ちょっと矛盾したことを言うようですが、今おっしゃったように普通はメリットもありますが、意識しすぎるとぎこちなくなるということもあります。

実は私自身がそうで、ジョイニングを教えてもらう前からこんなことは治療の中でできていました。ところが、あらためて教えられて、これがあれがと意識すると、面接中でも意識してしまいます。するとかえって動きがおかしいことになってくる。それはやはり究極的には忘れたほうがいいのです。

むしろ、そういうことをやったことのない人が、こういう技術があるということで、とりあえずは型を身に付けるために一生懸命勉強した方が良い。そして、そのうち忘れて自然にやっていただけると良いですね。

空手もそうです。最初はいろんな型を意識的にやりますが、本当に試合になればパン自動的に技が出るでしょう。いちいち意識していないでしょう。相手がこう打ってきたから、こうよけて、こう打つなんて思わない。体が自動的に動く。本来はそういうものです。

吉井つまり習慣づけしてしまうということですね。

習慣づけということです。こちらにお集まりの方はそういうことをすでに自然にやっているのに、私がわざわざこんな話をして、意識させてしまって、かえってギクシャクさせてしまったらどうしようか。そんな心配をしながら昨日は話をしてしました。

ですから、ぜひまた忘れてください。ただし、部下や職場の人でできていない人がたくさんいると思いますので、若い社員たちに教えてあげてください。知らない人が見よう見まねでやっていって、何年かたつうちに、教えてもらったことは忘れたが実は自然にできている、という社員がいっぱいできれば、それはものすごい戦力ですね。

私が会社などのトップならジョイニングができないような社員は採用しません。ほかにどんな才能があっても、ジョイニングが才能がなければ採用しません。これは間違いないです。

吉井私なんかは、企業の育成に携わってきましたが、社員の育成に携わってきましたが、ジョイニングの発想はあまりなかったですね、実際に、家族療法の中でのジョイニングということを聞いて、それぞれいいものがあるので、それをうまく融合させて一つの形ができればと感じました。

素晴らしいですね。

吉井ジョイニングの手法は、先生が言われたように、意識するとどうしてもぎこちなくなりますから、ワークなどを使って習慣づけを練習していくといいですね。

実際のロールプレイなどのワークを通して、自分で気付くことが大事です。できればビデオに撮って、できているところが何か、できていないところは何か、そういうことも繰り返しやることが大事だと思います。

 昨日の講演のような話を聞くと、それだけでわかった気になる人もいます。でも、実際にやってみると、そんな簡単にできるものではない。まして若い社員にはむずかしい。よほど天才的な方とか器用な方でないと最初からはできません。やはりトレーニングが大事です。

吉井通常、コミュニケーション手法の中では、ジョイニングはあまり取り入れていませんね。発想として、実際の基本的コミュニケーションの中で、どんどんいいものを取り入れていって、例えば企業の研修などに使えばいいという感じがしました。

ぜひお勧めです。臨床心理学などという学問で、企業に役立つような知見なんてほとんどないのではないかと思っていますが、ジョイニングはそうではありません。

吉井素晴らしいと思います。私も、名前だけは知っていましたが、内容を聞いて深みを感じました。あと、応用性も感じました。私なんかは実学として個人の行動パターン分析をやっています。先生からみた統合的な部分のシステムというよりも、個人にターゲットを絞りながら、関係性を見ていくというパターン分析です。

主に意思決定や行動分析、あるいは対人対応など、統計的に積み上げたものを数千例取りまして、いくつかのパターンに分けて、それを一つの目安にしていこうという形です。こういう手法というのは今後、例えば家族療法などにもマッチングできるような気がしますが。

大いにすると思います。昨日、私も、飲み会の席でいろいろ教えていただいて、これは使えるという感覚を持っています。というのは、特に家族療法は、皆さんも昨日の話でも感じていただいたと思いますが、関係ばかり見ているわけです。

特に私などは、何が二人の間に起きているかということばかり見ている専門家で、それぞれの個がどういう人物かということを理解するための羅針盤を持っていません。

確かに関係のところだけを理解しただけでも、それにうまく合わせればジョイニングは達成できるのですが、これにプラスアルファ、この個人はこういうタイプの人だ、こういうことに喜ぶ人だ、こういうことを言うと怒る人だ、などといったデータがあれば鬼に金棒ではないかと思います。

組織・集団としての動き方がわかって、個人個人にもチャンネルを合わせられる。これほどの強みはないでしょう。そういう意味で、吉井先生の手法と家族療法の手法をマッチングすると鬼に金棒になるのではないかということが、今の私の直感です。本当にそうなるかどうかはわかりませんが(笑)。

吉井私どもは事例をかなり持っていて、企業の中で、マッチングも含めて、お客様との対応、あるいは社内的なグループ顧問をやってみましたが、かなりいい結果が出ました。つまり、今まで険悪だった人間関係がかなり改善して、コミュニケーションがとれるようになりました。

これは、数千例を積み上げてきますと、事例的にはまだまだ少ないですが、これを知らないで生きている人を見ると、かわいそうだという気がして。

もっと楽に生きられるのに。いやあ、本当に僕も後悔してきました(笑)。本当にそう思います。だから、ぜひ勉強したいという気持ちなりましたね。ただ、少し疑問に思いましたが、初めての人にお目にかかったときに、いきなり誕生日を聞くのは難しいですね。こういうところはどう対応されていますか。

吉井ごく普通に、お客様に対してデータをいただきたいのですがということで、名刺に書くというように簡単にすればいいと思います。

情報を集める方法があるわけですか。そういえば、昨日、私も何気に誕生日を言いましたね(笑)。

昨日こちらに来たときは何も知識がなくて、初めて先生にお目にかかって、ほんの3分か4分で誕生日を聞き出されました。なぜこんなことを聞くのかという疑問も持たずに、しゃべらされていましたね。(笑)。これは、やはりトレーニングでしょうね。

吉井私も最初は、どちらかというと疑心暗鬼で、占いみたいでちょっとという部分もずいぶんありました。ところが、データをかなり取っていきますと、全く何もないというよりも、むしろ何かここにあるのではないかということで、バイオリズムの原理と全く同じようなパターンです。

これは〓擬似化〓だと言われていて、まだ裏付けは証明されていませんが、傾向性としてということで、仮説という形でやっています。傾向性がわかってお付き合いするのと、傾向性が全くわからないでお付き合いするのは違います。

全然違うでしょうね。昨日、なぜ結婚する前に聞かなかったのかと思って(笑)。

昨日の飲み会の席でどんなにグチをこぼしたことか。

吉井先生だけではなくて、多くの方がそう思われていて、私もその一人です。

(会場に向かって)奥さん、聞いておられますか。(笑)

吉井正直に言いまして、それによってある程度解決されてきたという例があって、今では非常に仲良くやっています。一歩外に出て学校のいじめ問題などいろいろ見ていますと、個人にターゲットを絞るのと同時に、先生が言われるように総合的に見るという視点が全くないです。

そのために今までの主観や自分の価値観を押し付けていることがあるので、昨日言われましたように一方通行の見方をして入る。それによって弊害が起きていると思います。

スクールカウンセラーは現在、学校にもたくさんいて、私の友人でもやっている方がいますが、まだまだ手探りで見いだせない部分もある。昨日、先生のお話を聞いた中で、先生の家族療法のアプローチしているわけですし、それとわれわれの個人対応として見ながら、関係性を見たり、傾向性を見たりという形をとっていけば、逆に今の日本が抱えているいじめの問題、あるいは自殺に走る人間関係ということでも応用できるのではないかと感じました。

間違いなくできると思います。

吉井先生の、システムで見るというのは、例えばテレビであれば、テレビの構造や形からデザインすべてにおいて、すべてがそのものだと思います。われわれのやり方は、その中のチャンネル、チューニングするような合わせ方です。これが本当にマッチングできれば、素晴らしい融合理論ができるのではないかと思います。

教育現場でどれだけ役に立つか、学校の先生を何人も集めて言いたいぐらいです。

吉井今度、ジョイントでセミナー。

ジョイントでやりましょう。

(拍手)

「いじめ撲滅全国ツアー」などといって、ときどき歌も歌いますか。

吉井座ってやるとまじめですが、立ってやると、先生のキャラと私のキャラがかぶって、吉本系になってしまいますね。(笑)

あの二人は漫才師か、なんてね(笑)。

吉井本当に総合的に見ることが大事ですね。どうしても一面しか見ない。われわれが勉強した中で、先生のジョイニングの話を聞いたりすると、まだ勉強不足だと感じましたし、物事は多面的に見ていくとわかることがあるということがわかりました。

全く同じ言葉をお返ししたいです。私には関係性の変化を促すような話ができても、たとえば具体的に「いじめっ子にこういう子がいるが、この子にどう接したらいいのか」と問われたら、その答えはなかったのです。私にも足りないところが大いにあるぞと、昨日から感じている次第です。

得て不得手があって、それを補い合って一つの大きなものを作っていくことは大事なことではないでしょうか。本当に役に立ちました。ありがたい。

吉井ありがとうございます。

DVDをぜひ送ってもらいたい。(笑)

吉井私の講座には9歳ぐらいから上は80歳ぐらいの方までいます。

昨日も会場に小さな子供がいてびっくりしました。

吉井一緒にテストをやったりします。内容を見たら大人より……

大人よりできている。(会場に)皆さん、ここは反省してくださいね。叱っておられるのですよ。(笑)

吉井友達にも活用していると、周りがよく見えてきたということと、自分の立ち位置というか、このままでいいという個性がよくわかったと言われていました。も子どもがいますが、この研究過程の中で実際に使ってみました。非常に効果が出てきました。

それをもう少し具体的に。

吉井男の子で、コミュニケーションがとりにくかったのです。今までは、どうしても父のやり方を見てきましたので、それでいいとか、あるいはテレビを見たりすると理想の父親像がありました。そこを目指したらいいのか、父親のやり方もそうですか、理想的なものと融合させて、自分なりのものを作ろうと思ってやっていました。

ところが、男の子が3人いますが、自分でアプローチして、わかる子とキョトンとしている子がいます。なぜかと思っていました。結果的に、後でわかったことですが、それぞれの意思決定の仕方が違う。スピード感も違う。

対人対応も、明らかに自分を出してくる人間と、たとえ親であっても距離感を置くということがわかったので、そういうものに接すると、逆に向こうからアプローチをしてくるようになりました。

なるほど、面白いですね。

吉井ある意味、非常にいい関係で、一般的に言われている父親と男の子で育ってしまうと、それぞれバラバラになってしまいますが、大人としての距離感を保ちながらも、お互いに尊敬できる部分ができてきます。

そうですか。それも、それぞれの子どもさんのお誕生日を。

吉井相手を調べて……

調べてって、他人の子どもみたい(笑)。

ちょっとうちの子の誕生日、区役所に調べに行ってくるわ、なんてね(笑)。

吉井最初は疑心暗鬼です。本当かどうか、人に言う前に自分の子どもをということもあってやってみた結果、今まで接し方が悪くて親父なんかというところがありましたが本当に劇的に。3人が3人とも同じように接しているつもりですが、それがわかる子とわからない子がいます。

なぜ、こいつは私の言うことがわからないのか、おまえたち、もっとよく聞けという形で、よけいにバラバラになります。それが悪循環になっていました。ところが、研究してその子に合った接し方をすると、向こうからこちらに近づいてきます

昨日も会場でどなたか質問された方がいて、娘が母親にばかりなついて、父親の私は寂しいとおっしゃっていましたが、多いですねえ、そういうお父さん。家族療法でも、困っているお父さんを個人的にどう援助するかというと、これがまた即効の方法がないのです。

少しずつやっていくしかないのですが、今お話しされたような知恵があって、お父さん方にそれをお教えできれば、変化が速そうですね。

吉井一つの事例の中で出てきた目安としてですから、絶対的なものはありません。ただし、全く見えないで、自分の個性で押し付けるよりも、だまされたと思ってぜひ活用してくださいということでやった結果、今まで全く見えなかったものが見えてきたとか。

そういう報告がある?

吉井はい。かなり出てきました。実際に、学校の先生で私どもの方法を使っている方がいます。私どもは、意思決定のときに、「感覚的なことで物事を決めるタイプ」「周りはともかく自分の意思だというように行くグループ」「全体を考えながら相対的に物事を見るタイプ」に分かれてくるという一つの仮説を立てました。

 その先生が並び方も変えてやってみた結果、うなずき具合、これでするときにはこの列がうなずくわけです。こっちはシーンとしている。(笑)

吉井こちらに響く言葉をかけると、真ん中の方がうなずく。そういうことがわかってきました。ということは、全くの仮説というよりも、むしろ実学としてずいぶん効用があります。

ですから、リクルートも性格分析テトをやっていますが、そういう形で、自己申告でやるよりも、こういう事例がたくさん出てきましたので、この方法を文部科学省に学校でも使ってほしいということで、まだ事例が少ないものですから、今たくさんの事例を取ってやっています。

おっしゃるとおり、とにかく事例の数が大事。数で語ることが必要です。証拠がないと誰も採用してくれません。

吉井先生と私に共通する点は現場主義というか、今まで臨床の中でずっと現場でやってこられた。私も今ずっと現場でやっています。先生の事例の中で一番面白いというか、興味を持ったのは「石廻し」という方法です。これをお話いただければと思います。

私の本を読まれた方はご存じかもしれませんが、「石廻し」という儀式処方のケースがあります。これは、当時30代だったと思いますが、公務員の男性の方で、ある身体的な症状があって職場を休みがち。

今どこかの県で、何年間で5日しか行かないで給料をもらっていたような人が話題になっていますが、そこまでひどくはなくとも、給料をもらいながらおやすみになっていたという方です。

その方は、なかなかよくならなかったのですが、お父さんとの関係が大変悪い。お母さんはそれも心配しているわけです。ところが、お父さんは病院には絶対に行かないと言っている。本人も父親には会いたくない。

一緒に病院になんぞ行きたくないと言っている。どうしようもないかと思いましたが、いろいろ話しているうちに面白いことに気がつきました。その患者さんは迷信深いというか、神頼み的なことに興味を持っている人だということがわかりました。さらに興味深かったのは、お父さんもそういう人だということがわかったことです。

そこで私が出した処方は、「この症状が長引いているのは、変なものがついているのかもしれない。お祓いではないが、そういう作業をしたほうがいい。家族の協力も必要だから、家族で京都の鴨川に行って、鴨川沿いにある石を探してきなさい。

この石は私の石にぴったしだという石を探しなさい。お父さんもお母さんも自分の石を探してきなさい。それぞれの石を見つけて、家に持って帰ってよく洗って塩で清めて...」
本当にこんなことが必要かどうかではなく、わざと仰々しい儀式をお願いしたのです。

 「それを家族3人が毎日、円座を組んで座って、石を固く両手で握りしめ、3人それぞれがこれは自分の石だと念じる。その次に石を交換して、これは父親の石、これは母親の石、これは息子の石、といった具合に念じる。さらにこれを次に回してまた念じる。都合3回ですね。これを毎日欠かさずやっているうちに症状が楽になる」という話をしました。

 今、考えると危ない世界ですねえ。こんなこと、真面目な顔してよく言ったもんです。でも、それをやると本当に見事に症状が良くなりました。お父さんと息子の関係も改善しました。

 従来からも、お父さんと息子の関係をよくしようというアプローチはいろんな相談所でなされてきましたが、二人とも全然乗らなかった。息子も嫌がるし、父親も嫌がる。どうしようもなかった。
ところが、たまたま二人とも信心深いという情報があったので、これだ、これしかない、と思ってやったわけです。それがたまたま功を奏した。
しかしヘタをすると、インチキ祈とう師だということで新聞の三面記事に出るところでした。

(笑)

吉井先生の発想は、独特でユニークな発想ですね。直感的なひらめきですか。

ひらめきです。

(笑)(拍手)

吉井裏付けがあるわけではないですね。

いいえ、裏付けはもちろんあります。例えばミニューチン先生の理論があるわけです。ミニューチン先生の理論は、一つには「状況が変われば人もまた変わる」という楽観論。もう一つは、「変えるためにはまず相手の懐へ飛び込め、相手の価値観、相手の土俵に乗れ。その中で一緒に作業をせよ。その中にチャンスはある」というものです。

 これはまあある種の哲学ですが、私もそれを信じているわけです。だから、何年も仕事に行っていないような方でも、この人は絶対に良くなれるという思い込みが私にはある。それで、何とか父子の共通項を探す。この場合は「信心深い」というのが見つかった。そして、そこにうまく入っていければ、次に必ず何か良い動きが生まれてくると私は信じている。

ある意味、相手の土俵に乗りさえすれば、次は何をしてもうまく行くのではないかと思っています。だから石廻しでなくてもよかったかもしれません。何でもいいから、とにかく相手の土俵にうまく入り込めば何かを起こせるだろうということを確信しているのですね。

石を回したのは直感です。石を使ったのは確かに直感です。ただ、そこに至るまでの哲学があるわけです。

吉井もちろん理論的な背景と先生のキャリアも含めて、われわれの感覚からすると、臨床心理士が石ということに目をつけて、それを回すというのは、どちらかというと非常にユニークすぎるような発想があります。(笑)

吉井先生は、石廻しの理論だけではなくて、「虫退治」がありますが、これも不思議ですね。

虫退治は私の学位論文です、恥ずかしながら。これは2冊目の本に書いています。ちゃんと理論がございますのでごくごく簡単に話したいと思います。

人の中に病気があります。あるいは性格もあります。悩んでいる人は、私は病気の人間だ、私の性格はおかしいというように、自分のものとして悩んでいるわけです。つまり内在化しているわけです。病気や性格を自分自身の一部として見ている。まあ、確かにそれはその通りかもしれませんが、実はこれがやっかいな状態。病気や性格を責める事はすなわち自分自身を責める事になるからです。

もっといえば、家族等の周りの人たちも結果的にその人を責める事になります。つまり「病気を責めること=その所有者である人物を責めること」、「この人の問題行動を責めること」=「この人物を責めること」という具合。内在化された状態では、たとえば両親や学校の先生が何らかの問題や症状のある子供さんを責めるというシステムになりがちです。

このように内在化された状態では実は変化が起きにくい。それを変えるために、一つの技法「外在化」を行うわけです。つまり、人から病気や問題を外に出して分離する作業。これがうまくいくと、その人は病気・問題を責めますが自分は責めない。

家族等の周辺の人もその人を責めないで病気や問題そのものを責める。言わば、罪を憎んで人を憎まず。つまり、本人と家族や関係者が真に協力して病気・問題と対決するというシステムが出来上がるのです。そのようなシステムチェンジの必要があり、これを何とかできないかと思っていたところ、たまたまひらめいたのが「虫退治」という儀式です。
具体的には、たとえばこのようにします。

不登校の場合。多くの親は不登校の原因探しをしています。子どもの性格が悪い、親の対応が悪かった、子育ての失敗、いろんなことセラピストに訴えます。まずはそれをよく聴きます。その上で、それを全部否定します。そうした原因は全部正しくないと。

「ほとんどの人が勘違いしているのですが、実はそれは関係ないのですよ」
そう言うとみんなキョトンとします。キョトンとしているけど内心はうれしい。
「では原因は何ですか?」
「実は虫がついているのです」
(笑)

皆さん「ハア?」となりますね。 これは私が九州大学にいたときに始めました。九州大学の医学部といえば名門です。そこに受診したら「原因は虫がついている」。(笑)

そして、虫を何とかしなければいかんという話をするわけです。虫がついているという話に家族みんなを乗せるまでは、いろんなコミュニケーションの工夫があるわけですが、それはまた本を読んでください。

 そして課題を3つ出します。画用紙を切り抜いて人形を作ります。その人形は例えば不登校のAくんならAくんとして、人形のおなかのところに虫をかきます。虫には何か名前をつけます。それは何でもよくて、子どもや家族が好きな名前、怠け虫だとか弱気虫だとか命名する人もいます。これAくんから追い出す。

 夜、家族が集まって、お父さんとお母さんと本人、あるいは兄弟姉妹がいれば彼らも人形を取り囲んで、お父さんから順番に「Aの中にいる○○虫、出て行けえ」と声高らかに人形の虫の部分をバンと叩くわけです。次はお母さん、「Aの中にいる○○虫、出て行けえ」、本人も「僕の中にいる○○虫、出て行けえ」、お兄ちゃんも「弟の中にいる○○虫、出て行けえ」これを3周。(笑)

人形がクシャクシャになりますので、それを燃やして、庭に穴をほって埋めるわけです。次の日も画用紙で同じものを作って、また同じような儀式をやります。これを毎日やります。これが一番目の課題です。

 2番目は、こういう話を家族にします。「これで虫が弱くなります。ただ、本当に弱くなったかどうかテストしないといけないから、一つ目標を作ってほしい」目標というのは、例えばAくんが今よりも一歩前進したときに何ができるか、そういう目標を作ってください、ということです。

 例えば、1年間ずっと家にこもっている子どもであれば1日に一回外出する。あるいは、外出できる子であれば学校まで様子を見に行ってくる。その子なりの目標があります。それをAくん自身が決めなさい、と伝える。これが2番目の課題です。

 3番目はペナルティー。目標はできるかもしれないし、できないかもしれない。目標をやっていても、虫が一生懸命に足を引っ張る。虫は、この子を餌食にしようと思っているわけですから、成長したらえらいことだと何とか足を引っ張ろうとする。

そこで、Aくんが虫に勝てるように、がんばれるように親が応援してくださいと伝える。で、ペナルティーを設けてもらいます。具体的には、たとえば、Aくんが目標のできた日は何もありません。ただし、目標に失敗した日は両親が罰ゲームをしてもらう。何をするかは両親に決めてもらう。

断食を決める人もいますし、24時間テレビを見ないと決めるところもあるし、電気を使わない、裏山の滝に打たれる、などなど。両親によっていろんなことが決められます。これが3番目の課題です。そして、目標とペナルティは今ここで決めなさい、と伝える。

すると面白いことが起きます。たとえば、子どもに「君が目標を決めなさい」と伝えても、親が代わりに決めようとします。これはかなりしばしば見られます。そのときに、私が「お母さん、気になりますね。でも、これは本人が決めなければいけないことなので、ちょっとお待ちいただけますか。本人に決めさせましょう。そういうルールですから」と述べて、時間がかかっても必ず本人に決めさせます。

今までお父さんやお母さんが代わりにやっていたことが多いのですが、そこをまずきちっとやっていく。子供の自律性の尊重ですね。実はこれが重要な治療ファクターでもあるわけです。次に面白いのは、「ペナルティーを決めてください。これはお父さんとお母さんで決めてください」と述べても、なかなか会話をしない夫婦が多いのです。中には視線すら合わせない。二人とも黙ったままで相談しない。

セラピストはそこを応援してそれを何とか会話を創造して行かねばなりません。あるいは、なんとか会話はするものの、行き詰ると次のようなことがしばしば起きます。緊張感に耐えられない感じになると、どちらの親からともなく子どもに声をかけるのですね。

「おまえはどう思う」などと。あるいは子どもから口を挟んでくることもあります。お父さんとお母さんが気まずくなると、子どもが「お父ちゃん、こうすればいい」「お母ちゃん、こうすればいい」などと。

 いわば、三角関係になるのですね。親が子どもを三角関係に巻き込むか、子ども自ら入ってくるか、いろいろです。いずれにせよ、この関係が強固になってしまうと、親機能の成長を阻害するわけですし、子どものストレスも大変大きいものになります。

こういう場合、「お父さんとお母さんのことが気になるようだけど、ペナルティーは親の仕事だから、君はこっちにおいで。君は君の目標を決めないといかんからね。親はこっち、君はこっち」というふうに交通整理をします。昨日お話しした構造的アプローチです。親システムをきちんと作る。子どもの自立性を養うようにする。そういう働きかけを、「虫退治」をネタにしつつ、面接室で「今ここで」行うわけです。

「虫退治」はコミュニケーションを喚起するためのネタです。本当に虫がついているわけじゃないですよ、念のため(笑)。1番目の課題はどういう意味があるかと言いますと、どうしていいかわからず周辺的な存在であった親が、特にお父さんが多いですが、初めて子どものために関与できます。

お父さんはどうしていいのかわからない。お母さんにも、あなたは何もしてくれないと責められる。それではかかわろうとしても息子は自分の部屋に逃げ込む。お父さんは袋小路です。ところが、「虫退治」の儀式を通して初めてお父さんとしてそれなりの活躍ができます。活躍の場を与えられるわけです。

 このように、家族が一緒に解決のために何かに取り組む。これは大変大事なことでと思います。そういった設定をして不登校を援助すると、治療効果は大変高かったのです。もちろん無効な例もありましたが、今お話しした方法を上手に提示すれば、かなり役に立つ方法だとわかったのです。

対象にならない事例もあります。たとえば暴力がある家族。子どもが親に暴力をふるうところはしてはいけません。そういうことさえなければ、特に身体症状、頭痛や腹痛、心身症などの身体症状で学校に行けない子どもの場合は、これでほぼいけました。再登校だけでなく、身体症状も含めて9割近く回復したと思います。小学生、中学生には特に適用できます。高校生はちょっときついですね。「虫?」と言ってこちらをバカにしますから。(笑)

吉井架空のものを見つけて、家族の協力関係を無意識のうちに作っていくということですね。

そういうことです。しかも、最初に言ったように症状や問題の外在化を通して、子どもと親が共同戦線を張ることがまずは前提。「子ども」VS.「親」から、「虫」VS.「子どもと親」、この構造の変化が何より大事なのです。親が子どものために何かするというのは、聞こえはいいですが、結局、親が正義で、子どもが悪い、頼りない、情けない、この子が問題という枠組みはなかなか変わらない。

「助ける/助けられる」といった関係が固定化するわけです。だからこれを変えたい。子どもを主役にしつつ、みんなで一緒に戦います。虫退治=ドラゴンクエストの世界ですね。子どもも親もいっしょに成長する。この構造変化が私にとっては一番大事なところです。細かいことをいろいろ言いましたが、まずはここです。

吉井素晴らしいですね。日本人は昔から「病は気から」という言葉があるために、どうしても内在化のほうに進んでしまいますね。

気持ちの持ちようとか、どうしてもそちらに行ってしまいます。

吉井スケープゴート(身代わり)を病気にすることによって、ほかが一致協力体勢に入るということですね。

そういうことです。子どもが悪いのじゃない。育て方としての親の責任でもない。そして外在化して架空の悪者づくり。それをみんなでやっつける。

吉井これは孔子の理論にもありますね。敵を別に作っておくことによって、今まで仲良くなかった人間が一致して、その敵に向かっていくのがありますがまさに同じです。

同じです。ただ、その歪んだ形がいじめなどで見られる事もあります。クラスの中の強い者同士が、共通の人をいじめることによってかりそめの平和をつくる。そういう歪んだ形での現象として出ることがありますが、虫退治は孔子のおっしゃっていることのプラスの側面です。

吉井ということは、教育の現場に携わっている人間は、今までの既成概念で作られてきたものだけ勉強するのではなくて、やはり生の実学や学問もどんどん取り入れていって、総合的に勉強することが必要ですね。

そういうことです。やはり大事なことは知恵だと思います。どうすれば人が新しいステージに移行できるか、そのための知恵を絞る。
理屈や本で勉強して出てくるものではないですから。
吉井どうしても知識のほうが先行してしまって。

知識が先行します。

吉井大学で4年間、そして大学院で2年間やってきた方は知識ばかりですね。

知識ばかりです。知識は多いですが……

吉井今の教員システムは大学を卒業してすぐ現場ですから、社会経験が全くなくて、教員さんそのものがコミュニケーションがとれていない。コミュニケーション能力のない人がいます。もう一つありますが、先生のユニークな事例の中で、「ツボツボ式人格封じ込め大作戦」。これは名前が非常にユニークで、本で読んだだけではなかなかわからないので、皆さんもたぶん聞きたいと思います。

(拍手)

こんなに質問をされるのなら、自分でもう一回読んでくればよかった。(笑)

このケースは、解離性障害といって多重人格のケースです。私も、長い臨床経験の中でもこれほど見事な多重人格は一回しか見たことがないぐらい典型的な多重人格でした。 高校生の女の子でしたが、最初は、過敏性腸症候群(IBS)と診断されていました。下痢をしたり、便秘と下痢を繰り返したり、ガスが張ったりする過敏性腸症候群という病気がありますが、その子もこの治療で来られていたのです。

治療は続いていましたが、あるとき主治医から「東先生、相談に乗ってほしい。普通の心身症というよりも、この子はちょっと変」「どうしましたか」と聞きましたら、「親の話によると人が変わるみたいになるそうで、ちょっと診てくれないか」と言うわけです。

 それで、予約を取って私が会いますと、本人とお母さんとおばさん(お母さんの姉)の3人が来られた。離婚されていてお父さんはいない。面接をすると、本人は高校生なのに赤ちゃんのようで、お母さんとおばさんが心配そうにしている。

どうしたのかと聞くと、「この子は人が変わったようになる。今は赤ちゃんです。ところが家に帰ると凶暴な人間になって、家中暴れて親を殴る。あるときは、『あなたはそういうところがいけないのよ』とえらそうに説教をするタイプの人間になる」あとは忘れましたが全部で6つぐらいの人格がありました。それぞれに名前も付いていました。六重人格なんて、まさかそんなことがあるのか、私もにわかには信じられませんでした。

当時は、多重人格なんて小説や映画の世界のもので、仮にそのように見える人がいてもある種の患者さんが演技をしているにちがいないと思っていましたから。 ところが、目の前で赤ちゃんをやっていると思っていたら、突然ウーッと私の目の前で目が据わりだします。
「てめえ、俺さまに何をしよっていうんだ」
とても高校生の女の子ではない。
親も「先生、早く逃げてください」。
逃げろといわれてもねえ。(笑)

そのように目の前で変身する。家の中でもそうです。それを何カ月も続けている。とても演技だけではできない状態です。これは本物だ、さあどうしようかと困りつつ、いろいろとインタヴューを続けました。

 家族療法をやっていますと、ときどき家族以外の親戚の方が来たりしますが、その場合、けっこううるさ方が多いものです。一緒についてきたおばさんもうそうで、いわく、

「先生、私はこの子がこんなことになった原因を知っています。この母親が悪い!離婚したのはまあよろしい。この人は自分が離婚した後、仕事ばっかりしている。子どもは放ったらかしで、全然この子のことをかまってない。仕事ばっかり。それでこの子はこんなことになってしまった。母親が悪い」

こう言ってお母さんを責めるわけです。お母さんはフンとそっぽを向いています。
そこで、とりあえず外在化しようと思って「子育ての仕方は関係ありません」と私が言ったら、おばさんは明らかに不満そうな顔をしてみせる。、何を言っとるのかこの先生は、といった感じ。

でもお母さんはうれしそうな顔をしました。
「そうですか、先生」
「関係ない、関係ない。ご心配なさっているおばさんの気持ちもわかるけど、お母さんは関係ないですよ」
「そうですかねえ」
と不満そうなおばさん。他にもいろいろ事情があって母親を責めたかったのかもと想像しながら私は話を続けます。
「肝心な事は原因追求ではなくて、とりあえずいろんな人格が出ているのだから、きちんと元の位置に戻してあげなければいけない。人間は、一人ひとりの心の中にいろんな人格があります。普通はそれがあれこれ出ないだけ。ある一つの顔だけで生きていて、普通はあまり出しません。酔っぱらうとときどき出ますが、普通は出ない。ところが、この子はボコボコと出るから、それを早期に鎮めてやることが大事であって、なぜこれが始まったのか、そんな話はこの際どうでもよろしい。とにかく鎮めてあげましょう」。

 これにはさすがのおばさんも反論できない。
そこでどんな方法を提案したかというと、これもさっきの虫退治に似ています。
「まず、お母さん、この子のために人形を作ってください。一つは凶暴な顔をした人形、一つは優しい顔をした赤ちゃんのような人形。そして、ツボを二つ準備してください。そのツボを周りに家族が集まって、おばさんにも来てもらって、まずは凶暴な人形に対して、みんなで「○○、もうおまえは出てくるな」とみんなで順番に言う。

そして凶暴な人形をツボの中に入れて、木のフタを置き、その上から漬物石を置く。
もう一つの優しい赤ちゃんの人形は、「○○ちゃん」と順番に抱いていく。お母さんも「○○ちゃん」、おばさんも「○○ちゃん」、本人も「○○ちゃん」、みんなで大事にする。大事大事にして、もう一つのツボにその人形を入れる。その底には柔らかい木綿が敷いてあります。フタをして、上から石を置く。

 こういう作業です。これを毎日行います。原理は同じことです。我ながら驚いた事に、しばらくの後、これだけで多重人格が収まりました。よくあんなことを処方したなあと今は思いますが、そのときは夢中です。

 これも起きたことは同じです。要するに家族の責め合いがなくなった。みんな一致団結して儀式を続けた。おばさんが母親を責める。おばさんと母親がケンカばかりしている。母親は「あなたのせいで私は責められている」と娘に八つ当たりする。ますますおばさんは母親を責める。そういう悪循環が一発でなくなった。これは大きいです。

吉井外在化ですね。

ここでも外在化の力は大きかったと思います。

吉井われわれの生活の中で、こういうことは頭の中でわかっていても心からわからないもので、具体的にやることはなかなかないですね。人を責めてしまったり、現象を責めてしまったり、結果的にはその人そのものを責めてしまったりということで、そういうことは普段のコミュニケーションの中でもやっていますね。
ものすごくやっています。

吉井ということは、例えば現象というか、一つの問題をテーブルの上に乗せて明らかにしていくほうが、各個人のコミュニケーションがよくなるでしょうね。

よくなります。あんまりよくなるので、私の場合は自己弁護に使ったりすることがあります。するべき仕事を怠けたときに、「ごめん、ごめん、怠け虫が出て、私のせいじゃないから」と言ってごまかしたりします。(笑)

吉井いろいろと事例と見させていただくと本当にユニークで、通常の枠の中での発想は全くないですね。

そうです。常識はひっくり返せばいいといつも思っています。常識にとらわれるのは損です。もちろん常識も大事です。非常識な生き方をすすめているわけではなくて、常識も大事ですが、それを一度ひっくり返して、全然違う視点で物事を見ると、これまでにないものが出てきます。

 今までの精神医療、心理臨床の中では、私がやっているようなことはおそらくなかったことです。最初はみんなから、東は変人だと思われたし、ずいぶん批判もされました。でも私は非難されるのは平気なほうですから、患者さんの役に立てばいいと、どこかの腎臓移植の医者みないことを言っていますが(笑)、そういう意識でずっとやっていましたので、常識は捨てたいといつも思っています。

 その代わり、常識を捨てると立派な組織にはなかなか受け入れてもらえません。学会などでも嫌われます(笑)。ただ、幸いなことに家族療法学会というのがありますから、そこだけで何とか生息しています。最大手の日本心理臨床学会なんて、私は浮くこと、浮くこと。(笑)

吉井日本の心理学界は、ほとんど外国から来たものをそのまま研究していくという風潮が多いですね。

そうです。

吉井先生のように、自分の臨床の中から、視点を変えてユニークな発想でやってみようという試みは、どうしても異端児的に見られてしまいますね。

日本ではそうですね。

吉井でも患者さんという視点から見れば逆に、自分に対していろいろアプローチしていただけるのはありがたいことだと思います。逆に、昔でいう「赤ひげ先生」のように、既成概念じゃない、とにかく患者が治ればという観点から見ていらっしゃるから、先生は素晴らしいと思います。

ただ、最初に申し上げたとおり、それは過去、私が若かったときに犠牲になった患者さん、本当に思い出しても胸が痛みますが、そういうことの積み重ねとして今があるわけで、最初から成功するのはなかなか難しかった。今更どうしようもないですが、過去の失敗した患者さんに対してどう償えばいいのか、ということが私の中の大きな宿題です。

吉井それは成長過程の中ですね。私もずいぶん失敗しました。

年をとれば取るほど痛みになります。

吉井先生がおやりになっている家族療法の中で、システムズ・アプローチという中での効用、目に見えるというか、確信できる効用と限界点についてお話いただけますか。

よく、家族療法の効用あるいは適応範囲などいろいろ質問されますが、ぶっちゃけたことを言いますと、私は無限にあると思っています。ただ、問題はそれを使う人間の限界です。

 私は臨床心理士で、学位こそ医学博士ですが、医者ではないので薬を使いません。しかし例えば私が薬を使える立場であれば、統合失調症に対して家族療法的なアプローチをもっと行うと思います。でも私にはできません。私の大学の相談室にもしも統合失調症の方が来られたら、ほかの病院を紹介します。

 これは家族療法の限界ではなくて私の限界です。当たり前の事ですが。あるいは、不登校は得意だけれど家庭内暴力は苦手という人や、うつ病を診るのは好きだが強迫性障害はだめという人もいるかもしれない。

家族療法家それぞれに得手不得手があるので、それを家族療法の限界だ、効用だということとは違うと思っています。そういう意味では、自分に何ができるかということが大切。一般的に家族療法はこんなに良い治療法だからそれをやっている私はすごい、ということではなく、たとえ家族療法を行っていても所詮自分はここまでしかできないという限界を知ることが大事なことだと思っています。

吉井それは大事ですね。

大事なことだと思います。これができなければ過去の私のように失敗します。ですから常に限界を厳しく設定しています。ストライクゾーンを狭くしています。それは、臨床家としての責任であり倫理でもあると思っています。

吉井私たちも、アドバイスという立場からするとかかわり合いが大事です。ここまでという部分を置いておかないと、頼られたりして大変なことになってしまいます。

そうですね。そこの線引きが上手にできるかどうかは、専門家としてやっていく上での楽さにも関係します。結局、限界をどこかで設けないと自分もしんどいですから。

吉井今日、来ていらっしゃる方も、いろんな意味でアドバイスする立場にあると思いますが、かかわり合いの中で自分の限界点を決めておくことが大事だと思います。

ものすごく大事だと思います。昨日もどなたかのご質問の中で、「紹介の仕方」みたいなお話がありましたが、ここまできたらこのケースは私の手に負えないからよそに紹介しようという限界設定は大事です。そして、紹介ルートをいくつも持っておくことも大事なことです。

私はケースのタイプに応じては紹介ルートをいくつも持っています。東に紹介したら何とかしてくれると思ってくれる人も中にはいますが、私の所に来たら、私からまたすぐにどこかへ紹介ということもよくあるのです。これは、やはり責任です。あちらこちらにいい顔をしようとは思いません。

吉井臨床が多い方は、それを自分で持っていますね。

持っています。

吉井われわれもそうですが、最初のアドバイスが成功すると、可能性ばかりが広がってしまって、自分の限界が見えなくて、何でもできそうだという。

有頂天になります。

吉井特に習いたてや経験値が浅いと可能性ばかりが広がってしまって。

最初はパチンコと同じでビギナーズラックがあります。(笑)

これで勘違いしてしまいます。

吉井やはり、ある程度の年齢を経ている方はその部分がわかっているでしょうね。われわれも、勉強されている方は20代からいますので、そこそこ成功してしまうと、それだという形になってしまいます。

そういう意味では、ぜひ皆さんに覚えていただきたいのは、うまい紹介も大変いい治療です。紹介するのは、自分がダメだったということではないのです。自分がそこから逃げたことではないのです。

上手に紹介して、次のドクター、次の相談機関の人が治療をしやすいような流れを作ってあげる。紹介先の先生は信頼できる人だと期待を持たせて治療的モチベーションを上げて送ってあげる。それこそが治療的な介入です。それができればもう100点満点です。それを「このクライエントさんは私が一人で抱えなければといけない」などと考えるのは、相手のためにならない。このことはぜひ覚えていただきたい。

吉井つまり自分を知るということですね。

そういうことです。

吉井あとは自分の限界を知る。自分のキャパシティーというか、スキルと知るということですね。

そうです。

吉井プロとして大事なことだと思います。かかわり合いの中で、どうしても正義感やお節介ということになります。それは、ある意味では危険ですね。

頼られると何とかしてあげたいと思います。ついついそういう気持ちになります。

吉井情の部分とスキルを冷静に見られる部分で、自分の尺度を持っていないといけませんね。
情だけで動くのはプロではない。

吉井われわれのメンバーでもそうですが、先生のように専門的にという形ではなくて、人生経験の中でプラスアルファ、サイグラムという理論を活用しながらアドバイスをするという形にしていますが、どうしても表面的な部分でしか見ない方もいて、自分の限界点も見えずにかかわり合いを深くしてしまう事例が多いです。

特にサイグラムは、昨日から私が聞いている範囲ではかなりパワフルな武器だけに、その武器を持った自分に有頂天になってしまって、それを振りかざして、自分自身が大きくなったような錯覚に陥る危険性があると思います。もちろんここにおられる皆さんはそんなことはないと思いますが、ただ、そういうリスクがある武器だということを自覚して、それをうまく使わなければならない。それは強く感じました。

吉井私自身、昔、札幌の飲み屋さんに行ったときに、女性を独占したことがあります。

うらやましい。(笑)

吉井自分はモテる、これを持っている自分は絶対に大丈夫だという確信を持ちましたが、後から、それが私ではなくてサイグラムに対して興味あるだけだった。それで自分の限界点を知ったという過去があります。(笑)

なるほど。(会場に向かって)奥さん、よかったですね。(笑)

吉井最後に、相談業務をやられている方に一言アドバイスがあれとすれば、先生の立場から、どういうことに一番気をつければいいかということをアドバイスしてほしいのですが。

これは広いご質問ですね。相談業務を続けていく上でのアドバイス。いろいろありますが、先ほど、きちっとした紹介ルートを作りなさいと言いましたね。それに似ていますが、やはりネットワークが大事です。一人でやらないこと。

常に相談できる相手があると良い。それはクライエントさんを紹介できる人でもあるし、場合によっては自分のスーパーバイザーとしての機能も持つ、そういう人。何かあれば気楽に相談に行けるところを持って、あるいは横のつながりを持って、その中でお仕事をなさってください。一人でやるときついです。これが最も私が言いたいことです。仲間でやりましょう。
吉井あと、今日来ている方もそうですが、皆さん家族がいます。日本の家族形態も、昔の大家族から最近は少子化あるいは核家族化になって、コミュニケーションがとりにくいと思います。先生の立場から、いい家族関係を築くアドバイスがありましたらお聞きしたいのですが。

私はその手の質問が最も苦手です。(笑)

なぜ最も苦手かというと、そんな方法がわかっていたら、まず自分のところでやっています。(笑)

これはもう勘弁してほしい。むしろ、それを私がサイグラムで勉強させてもらって、家に帰って早速やってみようと思っています。

プロとして他人の家族にかかわっていますが、決して家族関係をよくしようと思っているわけではないのです。家族療法をやっていますが、良い家族関係が何かもはっきりわかっていないところがあります。

ただ、家族がある病気、ある問題で困っている。これを家族の力で解決できるように手伝ってあげようとは思いますが、結果としていい家族関係になるのかどうか、それはあなたたちで好きに決めなさということであって、親はこうあるべき、夫婦はかくあるべきということは、私は口が裂けても言わないし言えない。

なぜなら、自分ができていないから恥ずかしくて言えない。そういう思いがどこかにあるので、どうかその質問は勘弁してください(笑)。

吉井その締めが出てくるということはさすがにプロですね。私自身もそうで、いまだに模索しています。本当に今日はありがとうございました。

ありがとうございました。

吉井最後に、皆さん、先生と接する機会も少ないと思いますので、せっかくですのでご質問を何点か。

いくらでも。

吉井せっかくですから質疑応答をやりましょう。
質問者因果応報、原因があって結果があるということですが、今までは原因を見つけて、それがなくなれば結果がなくなるという発想が昔からあるような気がしますが、これと先生がやられている家族療法と対峙させてどうですか。

ある原因があって、ある結果が出てくるのは「直線的因果律」と言います。これは西欧哲学あるいは西洋医学の考え方です。一方東洋医学は直線的因果律ではありません。この中にご専門の方がおられるかもしれませんが、「円環的因果律」です。全体的にいろんなものが相互に作用して、どこかに病気が出てくると考える。

西洋医学は局在するものをやっつけて、これを取り除いたら何とかなるというものが西洋医学ですが、東洋医学はそうではありません。全体の治療ですね。家族療法はこれに近いです。そう考えていただくといいでしょう。ですから円環的因果律で考えると、世の中のこと何が原因で何か結果かわからない、渾然一体となって一つの現象になる。これが原因、あれが原因というのは人それぞれの物語にすぎないということが哲学です。

しかし医学モデルは直接線因果律ですし、また伝統的な心理療法モデルも全部そうです。
「3歳のときのスキンシップが足りなかったから子どもに問題が出た」というような発想を持つ人もいますが、家族療法では、子育てが悪かったからこうなった、父親がどうだからこうなってしまった、などという発想は全くない。

相互に影響し影響される、いろんな事象はそのような全体の中の一部にすぎない、そういう観点が大事です。

吉井よろしいでしょうか。どなたかいらっしゃいますか。せっかくですから、どうぞ皆さん。

質問者先ほど、カウンセリングもしくはアドバイスをしていく中で、個人でやらないでネットワークを作っていったほうがいいということですが、正常な心理状態の方ばかり来る状態ならいいですが、まれにうつ病や心身症で来られた方がいた場合に、やはり病院に紹介したほうがいいと思います。

病院との連携関係を作っていくに、どういったきっかけを持てばいいのか、教えていただきたいと思います。

ご質問された方がどういうお立場かわかりませんが、一番いいのは勉強会に出席することです。学会とまではいかなくとも、専門家が集まるような勉強会があります。
どちらにお住いでしたか。

質問者東京。

東京なんて山ほどありますので、興味を持てばそういう勉強会に顔を出してみる。そこには医者や臨床心理士がたくさん来ていますので、その中で少しずつ知り合いになります。一度に急いではいけません。少しずつ友達になっていく。そうすると場・空間が少しずつ広がります。何年かたつととても広い人脈になります。まずは最初の一歩、そういう会に出てみてください。

吉井よろしいですか。どなたかほかにいらっしゃいますか。

スタッフ 昨日、出ていらっしゃらない方がいるので、ジョイニングについてもう一回。

昨日、出ていない方は手を上げてください。結構いますね。今のスタッフの方、昨日出ていない方がと言って、自分でも手を上げておられますが(笑)。

昨日講演を聞かれた方には二度話になりますが、ジョイニングとは参加するという意味です。家族療法の技術で一番有名なものです。私の尊敬する治療者にジェイ・ヘイリーという人がいます。この人がすごいことを言いました。

「私にあなたの治療の一回目だけを見せてください。一回目の治療を見たら、その治療が成功するかどうかを見分けることができます」私は最初、そんなバカなことはあるものかと思いましたが、今は私も同じことが言えます。皆さんの一回目の出会いを見せてください。これは成功する、これはうまくいかない、それをほとんど見分けることができるように思います。

それぐらい出会いは重要なので、家族療法家が一回目に一生懸命にやっている作業がジョイニングなのです。つまり相手に溶け込む。個人が相手でもそうですが、家族療法では多くの場合は複数の人に溶け込んでいく能力が問われます。この技術をジョイニングと言うのです。代表的なものを板書します。

  1. 相手の話を上手に聴く
  2. 相手の雰囲気に合わせる
  3. 相手の関心事に合わせる
  4. 相手の動作に合わせる
  5. 相手のルールに合わせる

 

 昨日しなかった話をしますと、家族療法の場ではないですが、面白い経験があります。私が九州大学の心療内科にいたとき、心療内科の病棟のナースステーションにいますと、そこに70代の男性の患者さんが入院してきました。何かの身体症状があって入院されたのです。

 最初に看護師さんが病歴をとります。看護師さんは忙しいから早くさっさととりたい。
ところが、おじいちゃんは昔戦争に行っていて、看護婦さんに戦争の話を始める。「看護婦さん、わしは若いとき、フィリピンのジャングルを走り回っていた。アメリカの飛行機が来て機関銃がバババババ。えらい目に遭った」

そんな話をする。看護師さんはイライラします。だんだん顔も引きつってくる。そうすると、おじいちゃんも「怖い看護婦や、えらい所に入院した...」という雰囲気になってきました。

 私はたまたまその現場を見ていて、このままいけばこの治療はアウトだと思ったので、看護師さんを呼んで、「忙しいかもしれないが、しばらく戦争の話を聞いてくれないか。病歴なんていつでもとれるから」と頼みました

 すると、「おじいちゃん、さっきはごめんね。戦争に行っていたそうですね」
「おお、看護婦さん、聞いてくれるか。若いときにフィリピンにおってなあ、機関銃でババババッと撃たれて大変だった」とまた一から話し始めます。しかし今度は看護師さんも上手に聞く。

「そうでしたか。おじいちゃん、大変でしたね。苦労しましたね」
それで15分ほどたつと、傑作なことがおきました。
そのおじいちゃんは、さんざんしゃべった後でキョトンとして、「あれ?看護婦さん、何かわしに聞きたいことがあったんじゃないの。早く聞いてちょうだい」(笑)

こうして良いスタートが切れた治療は、3カ月で、やはりうまくいったようです。 これは、まさに相手の関心事に合わせるという作業から入ったからです。こっちが聞きたいことを優先的に聞くのではいかんのです。確かに必要な情報はあるでしょう。しかしそんなことは今はよろしい、まずは関係を作りましょう。何よりも関係作りが優先。関係ができれば、後はどんな情報でも入ってきます。

今のエピソードは3番の「相手の関心事に合わせる」というところですが、昨日話しませんでしたので紹介しました。一番家族療法らしいのは5番「相手のルールに合わせる」です。

吉井5番は、昨日聞いた方もいると思いますが、今聞いた方もなんとなくわかりますが、ルールというと微妙なところがありますので、5番だけお願いできますか。

昨日来られた方は二度目の話になってしまいますが、家族であれなんであれ、集団はそれぞれ独特の動き方をします。これがシステムです。そしてそのシステムを見たときに、それが良いとか悪いとかの判断ではなくて、とりあえずセラピストがそれに波長を合わせていくという作業。

これが「ルール合わせ」で、もっとも家族療法らしいテクニックです。できるだけ早く相手のルールを見抜かなければいけませんが、ほとんどの場合はすぐに見つかります。

例えば私が診察室にある家族を呼んだとします。さて先頭に誰が入ってくるでしょうか。ある家族はお父さんが入ってきて、「先生、こんにちは」などとお父さんが仕切る。一方ある家族はお母さんが先頭に入ってきて仕切る。ソーシャル・ゲートキーパーの役割ですね。
そうしたこともシステムの一部分です。それを早くキャッチして、それにこちらが合わせればいい。

 2回目にその家族と会うときに、この家族ではお父さんがゲートキーパーだと分かっていれば、家族が入ってきたときに、相手の起動に一歩先んじて、「お父さん、今日も暑いですね。ご苦労さまです」などとこちらからお父さんに社交辞令をする。相手が始める前にこちらからします。

あるいはお母さんがゲートキーパーの家族であれば、「お母さん、今日もご苦労さまでした」などとお母さんからポンと入る。先にキャッチする。これだけのことでその家族は大変居心地がよくなります。

 つまり、私たちが率先して、その家族のルールにとけ込んでしまうのです。家族に違和感は全然ありません。そのとき家族は、この先生は「うまくうちのルールに合わせた」なんて気がつきません。「何かしらいい雰囲気の先生だ」と感じるだけです。
家族にお世辞を言うようなわざとらしさがないからいいのです。
「奥さん、お化粧がお上手ですね」なんてことを言うといかにもいやらしいけれど。(笑)

そういういやらしさが全然なくてスッと入ってくる。そういう意味で、「ルール合わせ」というのはものすごく大きな武器になってきます。ついでにその続きを言いますと、かつて私の弟子の学生で恥ずかしい失敗をした者がいます。弟子が相手にしている家族ではお父さんがゲートキーパーでした。そこでまずお父さんに社交辞令しました。そこまではよかった。

しかし残念なことに、その延長で、お父さんにこう聞いたのです。
「今日はどういったことで来られましたか」
これは失敗。なぜだかわかりますか。話題を変えたのに、まだお父さんに向かって話を続けていたからです。ゲートキーパーはたしかにお父さんでした。しかし「問題な何か」と話題はすでに変わったのです。役割がチェンジするかもしれません。その可能性を常に考えておかなければいけない。

 その配慮があるならば、「今日はどんなことで来られましたか」という質問はお父さんにだけ聞いてはいかんのです。みんなに聞きます。
「今日はどういうことで来られましたか」とみんなを見渡しながら聞く。
そうすると、たとえば、それまで話していたお父さんがが引っ込んで、お母さんが「うちの息子が学校に行っておりませんの」などと話し始めることがある。プロブレム・スピーカーはママ、という次第です。

 このように、状況や話題によって役割がいろいろとチェンジするのです。そういうことを押さえていくことが大事です。また、こんなこともありました。家族療法では面接中、緊張感あふれる場面が結構あります。面接が重い雰囲気になることがあります。

ある家族で、治療に3歳ぐらいの子どもが来ていました。当初の観察から、その子は家族の雰囲気が悪くなったときの良い気分転換の役割を担っていることがわかっていました。ムードメーカーだったのです。これもシステムの一部分です。ですから、治療の中で雰囲気が悪くなると、私が率先してその子のホッペをつついたりしてからかう。すると、家族がワーと一気に明るくなる。これも従前のシステムを利用したジョイニングでもあり、広く治療戦略でもあるわけです。

 その家族や集団が、どんなときにどう動くかという情報を持っていれば、いろいろな場面でそれを使えるわけです。これをジョイニングの一技法、「ルール合わせ」と言います。
ご理解いただけましたでしょうか。結構細かい作業でしょう?

質問者全部できますか。
もちろん全部できるにこしたことはありません。ただしトレーニングです。私は、この会場におられる方に関しては無意識的にほとんどの方がされているのではないかと思っています。なので、意識するとかえってギクシャクするかもしれません。でも、皆さんの職場あるいは周りの若い人に教育してあげてほしいと思います。

質問者どういう本を読めばいいですか。

まずは私の本です(笑)。

一番簡単な本ですから。やや難しい、骨のある本を読みたいのであれば、本屋さんに行ってサルバドール・ミニューチンという名前で検索してみてください。その翻訳書、例えば『家族と家族療法』という本が出ています。きちんと本家が学術的に書いています。

吉井詳しくは先生の本を読んでいただければ本当によくわかります。先生の本は、難しく書かれているのではなく、一般の方向けで、心理学を勉強したことがない方であってもスッと入ってくる本ですので、ぜひとも1冊か2冊買って読んでいただければ思います。
ほかにありますか。ないようでございますので、先生、今日は本当にありがとうございました。

本当にありがとうございました。(拍手)

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